2002年9月15日日曜日

「長生きリスク」にどう対処するか

2002.9.15


今日は敬老の日。「多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う国民の祝日」とのことです。お年寄りにはぜひ長生きして貰いたいものだと思います。でもそんなことを言う散人自身も、いつしかもう年寄りと呼ばれてもおかしくない年頃です。人生の現実の厳しさを前にして、そろそろ老後対策も考えなければならないようです。まず一番大切なことは老後を支える経済的基盤でしょう。いったい幾らあれば大丈夫なのでしょうか。

その点に関し「 老後のキャッシュフローを考える 」というホームページでとても参考になる解説があるというので早速読んでみました。執筆者は大手企業を定年退職され方ですが、具体的な例を挙げてとても説得力に富んだ計算を提示されています。正直言って驚きました。結論として年収1000万円以上の収入があった人が、生活程度をそれほど落とさずに、ゆとりある老後を過ごすには「公的年金以外に退職時に1億円必要」ということなのです。おまけにこの計算は平均寿命(男性は81歳)で死んでしまうことを前提としています。

今月厚生労働省が発表した全国高齢者名簿によると今月末までに百歳以上となる高齢者が1万7000人に達するとのこと。32年連続で過去最高を更新、どんどん長寿化の傾向を示しているとのことです。81歳まで生きることが前提で1億円ならば、100歳まで生きるなら2億円、120歳までなら3億円となります。たとえ退職時に1億円の蓄えがあるという幸運な人であっても、もし不運にも長生きしてしまったら、81歳以降はわずかな公的年金だけに頼る「惨めな生活」を送らねばならないと言うこと。これを「長生きリスク」といわずしてなんと呼べばいいのでしょうか。暗澹たる気持ちにさせられます。
もちろん計算の前提にはいろいろ議論があるかと思います。でも言えることはちょっとたいへんな事態と言うこと。年金システムは破綻仕掛けており、今更政府が何かしてくれることは期待できない。自助努力しかないでしょう。個人が出来る対応策とは、お金を貯めるというのは勿論でしょうが、他にどんなものがあるのでしょうか。基本的に二つしかないと思います。

一つは、定年後も収入を求め出来るだけ長く働き続けることです。ハッピー・リタイアメントは諦めなければなりませんが、たとえ収入が少ない仕事であってもトータル・キャッシュフローでは大きな違いとなって現れてきます。でも管理職を長く続けてきた人に出来る仕事と言えば、やはり管理的な仕事。老害をまき散らさないかが心配です。本人がフロアの仕事でもかまわないといって単純労働に従事するにしても、今度は就業が難しい若年層の仕事を奪うことにも繋がりかねません。 ただでさえ日本の高齢者は働き者で、高齢者の就業率はヨーロッパ諸国のそれの二倍にも達しています。これ以上高齢者の就業率が上がることは(たとえボランティアの仕事であるにせよ)決して社会的によい傾向ではありません。戦後のパージで企業と役所から年輩者がいなくなって日本経済はどれほど活性化したかは、源氏鶏太の『三等重役』を読めばわかります。それと逆のことが起きる。

もう一つは、ドラスティックな対応であるのですが、なにをもって「ゆとりのある」生活であるかとする基準を変えることです。つまりお金がなくても幸せに感じるように自分を訓練すること。若いときのように物質的な享楽に人生の幸せを求めることはそろそろ卒業し、むしろそれを軽蔑し、物質的なものでなく精神的なものに人生の幸せを求める生き方を目指すべきでしょう(開き直りですね)。これは仏教でいう悟りです。お釈迦様はやはり偉かった。

しかしお金を使わずに人生を楽しむには、それなりの基礎が必要です。スポーツにしても全くの下手なプレーヤーであれば本人も面白くないでしょうし、本を読むにしてもベースとなる教養がなければ楽しめません。お金を使わないでも幸福感を味わうということは、実は高等テクニックであり、基盤となるその人の教養次第です。それには長い準備期間が必要です。散人も、常々もっと若いうちからこの努力をしておけばよかったと反省しています。ルイ・ヴィトン店に群がる若者を見るにつけ、貧しさの反動としての顕示的消費フィーバーが日本でまだまだ続いていると感じます。そろそろ卒業してもいい時期じゃないかな。若い世代にとって、これが一番の老後対策、「長生きリスク」への対処法かもしれない。

高齢者が消費にお金を使わないのが経済低迷の原因とする俗説がありますが、気にすることはありません。日本経済にいま一番必要なものは一時的に総需要を押し上げるだけの消費需要ではなく、落ちてしまった経済の生産性を上げるための設備投資です。高齢者の金融資産という原資があってはじめて設備投資が可能になります。日本経済の将来のためにも、高齢者は過剰な消費に走ってはならないのです。自信を持ってお金は使わず質実剛健で行きましょう。

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